2011年2月3日木曜日

顧問弁護士がかかわりうる判例

今回は、顧問弁護士が業務上関わりうる企業法務系の判例を紹介します。


1 本件は,被上告人が,自宅と道路を隔てた土地において葬儀場の営業を行っている上告人に対し,上記営業により日常的な居住生活の場における宗教的感情の平穏に関する人格権ないし人格的利益を違法に侵害されているなどと主張して,〔1〕上記人格権ないし人格的利益に基づき,又は民法235条を類推適用して,上記葬儀場において目隠しのために設置されているフェンスを更に1.5m高くすることを求める(以下,これらの請求を併せて「本件目隠し設置請求」という。)とともに,〔2〕不法行為に基づき,慰謝料及び弁護士費用相当額の支払を求める事案である。
2 原審の適法に確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
(1)当事者
ア 被上告人は,平成6年,第1審判決別紙物件目録記載2の建物(以下「被上告人建物」という。)を新築してその共有持分権を取得し,以来そこに家族と共に居住している。
イ 上告人は,葬祭請負業を目的とする株式会社である。上告人は,平成16年4月30日,幅員15.3mの市道(以下「本件市道」という。)を隔てて被上告人建物の東側に位置する上記目録記載1(1)の土地(以下「上告人土地」という。)を購入し,平成17年9月2日,上告人土地上に同目録記載1(2)の建物(以下「本件葬儀場建物」という。)を建築して,同年10月からそこで葬儀場(以下「本件葬儀場」という。)の営業を行っている。
(2)上告人が本件葬儀場の営業を始めるまでの経緯等
ア 被上告人建物の敷地及び上告人土地が所在する地域は,いずれも第一種住居地域(都市計画法9条5項)に指定されている。上告人が上告人土地を購入した当時,上告人土地は畑であり,その西側や南側には被上告人建物を含めて一戸建住宅が建ち並んでいた。
イ 上告人は,平成16年8月から同年11月までの間,6回にわたり,上告人土地に本件葬儀場建物を建設することについて地元説明会を開催した。
 被上告人を含む周辺住民により構成される自治会(以下「本件自治会」という。)は,葬儀場建設に反対する旨の要望書を宇治市長に提出するとともに,上告人に対して葬儀場の営業についての要望事項を伝えるなどしたが,上告人において,上記要望事項に配慮し,〔1〕目隠しのためのフェンス(以下「本件フェンス」という。)の設置,〔2〕本件葬儀場の入口位置の変更,〔3〕防音,防臭のための二重玄関ドア等の設置などの措置を講じたのを受けて、平成17年12月,被上告人を含む3名を除き,本件葬儀場の営業に反対しない旨の条項を含む和解協定を,上告人との間で締結した。
ウ 本件葬儀場建物の建築や本件葬儀場の営業自体は,行政法規の規制に反するものではない。 
(3)本件フェンスの現況等
 本件フェンスは,おおむね上告人土地とその西側に隣接する本件市道との境界に沿って設置されている。本件フェンスの高さは1.78mであり,上告人土地と本件市道との境界部分に設置されたコンクリート擁壁を含めると2.92mである。
 本件フェンスを更に1.5m高くするには,約221万円の費用を要する。
(4)本件葬儀場の営業と被上告人の生活状況
ア 本件葬儀場で通夜式又は告別式が執り行われる頻度は,1か月に20回程度であり,上告人は,遺体搬送車及び霊きゅう車を本件葬儀場建物の玄関先まで近付けて停車させて棺の搬入や出棺を行っている。
イ 本件フェンス及び上記コンクリート擁壁が設置されているため,被上告人建物の1階からは本件葬儀場の様子は見えないが,2階東側の各居室,階段ホール及びベランダからは,本件フェンス越しに,本件葬儀場に参列者が参集する様子のみならず,棺が本件葬儀場建物に搬入される様子や出棺の際に棺が本件葬儀場建物から搬出されて玄関先に停車している霊きゅう車に積み込まれる様子が見える。
ウ 被上告人は,被上告人建物2階の北東居室を仕事部屋兼寝室として利用するなどしているが,本件葬儀場の営業に強いストレスを感じ,本件葬儀場の様子が目に入らないようにするため,2階の各居室の窓及びカーテンを常時閉めている。
3 原審は,上記事実関係等の下において,次のとおり判断して,〔1〕人格権ないし人格的利益に基づく本件目隠し設置請求を,本件フェンスのうち被上告人建物に面する部分を更に1.2m高くすることを求める限度で認容し,〔2〕慰謝料等の支払請求を20万円の限度で認容すべきものとした。
(1)被上告人が受けている被害は,少なくとも棺が本件葬儀場建物に搬入される様子や出棺の様子が被上告人建物2階の各居室等から見える点において,受忍すべき限度を超える。
(2)したがって,被上告人は,上告人に対し,他者から自己の欲しない刺激によって心を乱されないで日常生活を送る利益,いわば平穏な生活を送る利益としての人格権ないし人格的利益に基づく妨害排除請求として,本件フェンスを高くする方法で,棺が本件葬儀場建物に搬入される様子や出棺の様子が被上告人建物2階の各居室等から見えないようにするために必要な限度で目隠しの設置を請求することができ,また,上告人が上記目隠しの設置をしなかったことについて,不法行為に基づく損害賠償を請求することができる。
4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1)前記事実関係等によれば,本件葬儀場と被上告人建物との間には幅員15.3mの本件市道がある上,被上告人建物において本件葬儀場の様子が見える場所は2階東側の各居室等に限られるというのである。しかも,前記事実関係等によれば,本件葬儀場において告別式等が執り行われるのは1か月に20回程度で,上告人は,棺の搬入や出棺に際し,霊きゅう車等を本件葬儀場建物の玄関先まで近付けて停車させているというのであって,棺の搬入や出棺が,速やかに,ごく短時間のうちに行われていることは明らかである。
 そして,本件葬儀場建物の建築や本件葬儀場の営業自体は行政法規の規制に反するものではなく,上告人は,本件葬儀場建物を建設することについて地元説明会を重ねた上,本件自治会からの要望事項に配慮して,目隠しのための本件フェンスの設置,入口位置の変更,防音,防臭対策等の措置を講じているというのである。
(2)これらの事情を総合考慮すると,被上告人が,被上告人建物2階の各居室等から,本件葬儀場に告別式等の参列者が参集する様子,棺が本件葬儀場建物に搬入又は搬出される様子が見えることにより,強いストレスを感じているとしても,これは専ら被上告人の主観的な不快感にとどまるというべきであり,本件葬儀場の営業が,社会生活上受忍すべき程度を超えて被上告人の平穏に日常生活を送るという利益を侵害しているということはできない。
 そうであれば,上告人が被上告人に対して被上告人建物から本件葬儀場の様子が見えないようにするための目隠しを設置する措置を更に講ずべき義務を負うものでないことは,もとより明らかであるし,上告人が被上告人に対して本件葬儀場の営業につき不法行為責任を負うこともないというべきである。
5 以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり,論旨は理由がある。
 そして,本件目隠し設置請求のうち人格権ないし人格的利益に基づく請求と選択的にされた民法235条の類推適用による請求については,これを棄却すべきものとした原審の判断を正当として是認することができる。
 以上説示したところによれば,原判決中上告人敗訴部分は破棄を免れず,上記部分に関する被上告人の請求は理由がないから,同部分につき第1審判決を取消し,同部分に関する請求を棄却すべきである。
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