2009年2月24日火曜日

残業代請求(サービス残業)

今回は、サービス残業の残業代請求に係る裁判例を紹介しています(つづき)。


第三 当裁判所の判断
1 月額の所定賃金に時間外、休日及び深夜の割増賃金(残業代)が含まれていたか否か
 被告は、月額の所定賃金に時間外、休日及び深夜の割増賃金(残業代)が含まれていたと主張する。この点は、割増賃金(残業代)の支給の対象となる時間外勤務(残業)時間がどれだけかという問題と時間外勤務(残業)手当(残業代)の算定における時間単価をどれだけにするかという問題とに関係してくるので、一括してここで判断する。そして、この旨が給与明細書上明らかにされていなかった平成一七年一月までとこれが明らかにされるようになった平成一七年二月以降とに分けて検討する。
(1)平成一七年一月まで
 平成一七年一月までは給与明細書上は基本給とされているだけで、月額の所定賃金のほかに時間外、休日及び深夜の割増賃金(残業代)が支給されている旨の記載がないことについては争いがないところ、毎月一定時間分の時間外勤務(残業)手当(残業代)を定額で支給する場合には、割増率が所定のものであるか否かを判断し得ることが必要であり、そのためには通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外、休日及び深夜の割増賃金(残業代)に当たる部分とが判別し得ることが必要であると解されるから(最高裁平成六年六月一三日判決(判例時報一五〇二号一四九頁)、同昭和六三年七月一四日判決(労働判例五二三号六頁)参照)、被告のような支給の仕方では不十分であり、上記基本給の中にこれら割増賃金(残業代)が含まれていたと認めることはできない。
 被告代表者は、基本給の中に割増賃金(残業代)を含めて支給することについて原告を含むすべての従業員の同意を得たと供述するが(同人の尋問調書五頁)、同供述は、客観的な裏付けが全くないばかりでなく、基本給の中に月四〇時間分の時間外勤務(残業)手当(残業代)及び四〇時間分の深夜勤務手当が含まれていたとする被告の主張とも必ずしも一致しないのであって(代表者の上記供述は、基本給の中に一切の時間外勤務(残業)手当(残業代)及び深夜勤務手当が含まれていたとするものとしか解されない)、信憑性を認めることはできず、採用することができない。

 また、被告は、広告代理店のコピーライターなどについては、時間外勤務(残業)手当(残業代)は基本給に含まれているというのが業界の一般的な扱いであるとの主張もするが、このような扱いが労基法上許されないものであることは上記説示に照らして明らかであり、被告における扱いがこのような一般的な扱いにならったものであるとしても、これを正当化することはできない。
(2)平成一七年二月以降について
 上記(1)の判断を前提とすると、四一万〇〇〇〇円の基本給を基準として、月四〇時間分の時間外割増賃金(残業代)として業務手当一一万六五〇〇円、月四〇時間分の深夜割増賃金(残業代)として深夜手当二万三三〇〇円を支給するという方法は、通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外及び深夜の割増賃金(残業代)に当たる部分とを判別し得るから、時間外及び深夜の割増賃金(残業代)の支給の一方法として許される。ただ、本件においては、平成一七年一月時点での原告の基本給は五五万〇〇〇〇円であったから、これを基本給四一万〇〇〇〇円、調整手当二〇〇円、業務手当一一万六五〇〇円、深夜手当二万三三〇〇円に、それぞれ分けて支給することとすることは、基本給を減額することを意味し、原告にとっては不利益処分となるから、このことについて原告の同意が必要とされるところ、原告の同意を得ていないことは被告の自認するところであり、証拠によっても原告が同意した事実を認めることはできない。
 したがって、原告に対する関係では、平成一七年二月以降についても上記の月額五五万〇〇〇〇円に時間外、休日及び深夜の割増賃金(残業代)が含まれていたと認めることはできない。

2 原告の勤務時間について
(1)タイムカードの記載の正確性について
 被告は、タイムカードの記載の手書き部分は退勤時刻が実際の時刻よりも遅い時刻が記載されている可能性が高いと主張する。この点に関し、原告は、本人尋問において、手書きの記載をした理由として、例えば社外の打合せ場所から直接帰宅した場合、退社時刻が一定時刻を過ぎた場合、翌日の出勤欄に打刻されてしまう等設定が狂っていた場合、打刻を忘れた場合等があり、記載に際しては基本的には勤務状況を正確に反映する記載をし、端数が生じた際や記憶が曖昧になった場合には労働時間を短めにする方向で調節した旨を供述する(原告の本人尋問調書三ないし四、二二ないし二三頁)。同供述には格別不自然な点も見られず、タイムカード自体に「直行」(平成一五年一〇月一六日(書証略))、「直帰」(平成一七年三月二日(書証略))、「打刻故障(報告済み)」(平成一七年五月二三日(書証略))などの記載のほか、出勤時刻の打刻欄に「二:二〇」と退勤時刻と思われる時刻が打刻されている(平成一六年一〇月二九日(書証略))など、原告の供述に沿う記載がみられることに照らすと、信用に値すると思われるのに対し、被告は何ら具体的な反証をしない。そもそも、使用者には労働者の勤務時間を把握する義務があり、タイムカードに手書きの記載があるのに何ら是正を求めることなく放置してきたことに照らすと、被告は同記載を事実として受入れてきたと推認されるのであって、このことと前記原告本人尋問の結果とを併せて考えると、原告の供述どおりタイムカードの記載は原告の出退勤の実態をほぼ正確に反映したものと認めるのが相当である。
(2)原告の勤務時間について
 被告における原告の勤務時間について、原告は一八時三〇分までと主張し、被告は一九時までと主張するところ、被告代表者は、被告の主張に沿う供述をする。しかし、求人雑誌に掲載された被告作成の求人広告(書証略)及びインターネット上の求人広告(書証略)にはいずれも終業時刻一八時三〇分と記載されているのであり、原告との労働契約締結に際しても、一八時三〇分として合意が成立したものと認めるのが相当である。上記各記載について、被告代表者は、担当者が勘違いしたのだろうと供述するが、同供述は採用することができない。
 以上によれば、原告の勤務時間は、一八時三〇分までと認められる(そうすると、労働時間は一日八時間三〇分となり、使用者は六〇分の休憩を与えなければならず(労基法三四条)、時間外割増賃金(残業代)の支給対象となるのは一九時以降となる(法定の一時間の休憩が確保されている限り、一八時三〇分から一九時まではいわゆる法内超勤となる)はずだが、原告自らが、休憩を除いた実働は八時間、すなわち休憩時間は三〇分であったと主張しているから、一八時三〇分以降は時間外割増賃金(残業代)の支給対象となる労働時間であるとすることに妨げはない。なお、被告の主張によれば、本来は一九時以降が時間外割増賃金(残業代)の支給対象となるべきところ、(3)で述べるとおり一時間の休憩が確保されず、休憩時間は三〇分を確保するのがせいぜいであったという実態を前提とする限り、三〇分の不休憩の埋め合わせとして時間外割増賃金(残業代)の支給対象となる勤務時間を三〇分早める必要が生ずるから、結局のところ原被告いずれの主張によっても結論に差異はないこととなる)。
なお、企業の担当者で、残業代請求についてご相談があれば、顧問弁護士にご確認ください。顧問弁護士を検討中の企業の方は、弁護士によって顧問弁護士料やサービス内容が異なりますので、よく比較することをお勧めします。そのほか、個人の方で、不当解雇保険会社との交通事故の示談・慰謝料の交渉オフィスや店舗の敷金返還請求(原状回復義務)多重債務(借金)の返済遺言・相続の問題刑事事件などでお困りの方は、弁護士にご相談ください。