2009年1月24日土曜日

残業代請求

今回は、サービス残業の残業代請求に関する判例を紹介いたします。 

第二 事案の概要
1 争いのない事実
(1)被告は、広告・印刷物に関する企画・制作、グラフィックデザインの制作及び販売等を業とする有限会社であり、原告は、平成一五年三月に被告に入社し、コピーライターとして勤務し、平成一七年八月二〇日に解雇された。
(2)原告と被告との間の労働契約の条件は以下のとおりであった。
ア 勤務時間 一〇時から少なくとも一八時三〇分まで(うち八時間)
イ 休日・休暇 完全週休二日制(土日)及び祝日休、夏季、年末年始、有給休暇、慶弔休暇あり
ウ 給与支払日 毎月二〇日締め当月末日払
エ 原告の賃金額
 入社以後解雇されるまでの原告の賃金額のうち毎月定額で支給されるものは以下のとおりであった。なお、区分の名称は給与明細書の記載による。
平成一五年三月から同年六月まで
基本給 三六万〇〇〇〇円
平成一五年七月から平成一六年五月まで
基本給 四五万〇〇〇〇円
平成一六年六月から平成一七年一月まで
基本給 五五万〇〇〇〇円
平成一七年二月から同年八月まで
基本給 四一万〇〇〇〇円
業務手当 一一万六五〇〇円
深夜手当 二万三三〇〇円
調整手当 二〇〇円
役職手当 三万〇〇〇〇円
(合計 五八万〇〇〇〇円)
2 原告の主張
(1)原告が被告に勤務していた間のうち平成一五年一〇月から平成一七年八月までの、出勤時刻及び退勤時刻についてのタイムカードの記載は別紙二(略)の「出勤」欄及び「退勤」欄記載のとおりである。原告は、上記タイムカード記載の退勤時刻をもとに時間外、休日及び深夜の割増賃金(残業代)の支払を求める。
 被告における始業時刻は一〇時、終業時刻を一八時三〇分とし、原告の出勤時刻が始業時刻よりも遅かった場合には所定労働時間終了時刻を出勤時刻の八時間三〇分後とし、時間外勤務(残業)時間はその時刻を起点として計算した。また、原告の出勤時刻が始業時刻よりも早かった場合にも、始業時刻に出勤したものとして計算した。その結果は、別紙二の一から二一(略)の「残業時間(午後一〇時まで)」、「深夜残業時間」、「休日労働時間」及び「休日深夜労働時間」欄記載のとおりである。
(2)賃金単価は、別紙一(略)の「賃金単価」欄記載の算式のとおり、平成一五年七月から平成一六年五月までは二八七七円、平成一六年六月から平成一七年八月までは三五一九円である。これらは、いずれも基礎となる賃金を、平成一五年七月から平成一六年五月までは給与明細書記載のとおり四五万〇〇〇〇円(上記1(2))、平成一六年六月から平成一七年八月までは五五万〇〇〇〇円として計算したものである。なお、平成一六年六月から平成一七年一月までは上記給与明細書記載のとおりであるが、同年二月以降も従前の基本給を基本給、業務手当、深夜手当、調整手当に分解し、これを給与明細書上そのように記載しただけであるから、基礎となる賃金の額には変動がないというべきである。なお、同年二月以降役職手当の名目で支給されている三万〇〇〇〇円については、その実質は時間外勤務(残業)手当(残業代)の一部としての性質を有するから、基礎となる賃金には含めておらず、既払い金の一部としている。
(3)以上をもとに平成一五年一〇月から平成一七年八月までの原告の時間外,休日及び深夜の割増賃金(残業代)を計算すると、別紙三(略)記載のとおり一〇四〇万八四三九円となる。原告は、本件において同金員から既払い金八二万二九九八円を控除した残額である九五八万五四四一円の支払を求める。既払い金八二万二九九八円の内訳は、上記役職手当の名目で支給されていた金員のほか、平成一六年一一月までに休日手当として支給された金員に平成一七年二月に支払われた三七万五六四八円を合計したものである。
(4)被告は、平成一七年二月以降原告に管理職となることを正式に依頼し、原告もこれを了解したので、役職手当を支給することとしたから、少なくとも同月以降は、時間外、休日及び深夜の割増賃金(残業代)の支給対象とならないと主張するが、被告からそのような依頼をされたこともなければ原告が了解した事実もない。 
 また、原告の行っていた職務は、管理監督者(労基法四一条三号)としての実質を備えたものではなかった。
(5)よって、原告は、被告に対し、平成一五年一〇月から平成一七年八月までの時間外、休日及び深夜の割増賃金(残業代)の合計一〇四〇万八四三九円から既払い金八二万二九九八円を控除した残額である九五八万五四四一円及びこれに対する支払期の後である平成一七年九月一日から支払済みまで商事法定利率の年六分の割合による遅延損害金並びに労基法一一四条に基づく同一額の付加金九五八万五四四一円及びこれに対する判決確定の日の翌日から民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
3 被告の主張
(1)タイムカードの記載がおおむね別紙二(略)記載のとおりであることは認めるが、原告の主張する時間外勤務(残業)時間は争う。
 まず、被告における終業時刻は原告の主張する一八時三〇分ではなく、一九時であり、一〇時から一九時までで、昼食休憩の一時間を除いた八時間が所定労働時間である。
 次に、タイムカードの記載のうち、タイムレコーダーの印字がされている部分は正しいが、手書き部分は退勤時刻が実際の時刻よりも遅い時刻が記載されている可能性が高いといわざるを得ない。
 さらに、被告においては、原告の勤務時間をほとんど管理せず、原告の判断に委ねていた。被告は、原告をコピーライターとして採用したことから、入社時に、勤務時間は上記のとおりであるが、コピーライターとしての仕事の内容から、コピーの制作が期限までに完成すれば原告の裁量により自由に勤務してよいこと、余裕があるときは一八時半ころに帰ってもよいし、担当するコピー制作の仕事が終われば自由に休憩したり、事務所にいなくてもよいし、自主的な勉強や私的なことに時間を使ってもよいこと等を説明するとともに、下記(2)で述べる月額の所定賃金に基本給のほか残業手当等の諸手当が含まれていることも説明し、他の従業員も同様に勤務時間の管理は各自の裁量に委ねられている旨を説明した。そのため、原告は、勤務時間中のほとんどにおいて被告の指揮監督下におかれていなかった。実際、原告は、定時の出勤時刻に出勤することはほとんどなく、勤務期間全体の遅刻率は実に八七パーセントに上り、遅刻率が一〇〇パーセントの月が五か月、九〇パーセント以上の月が八か月もあるという通常では考えられないほどの遅刻状況にもかかわらず、被告は一切の賃金控除をしていない。また、原告は、勤務時間中ずっと仕事をするという状況にはなく、食事休憩の一時間以外にも一日少なくとも二、三時間は自由に休憩したり、パソコンやインターネットで遊んだり、ネットオークションを検索したり、または社外に出て本屋に行ったり散策するなど私的なことに時間を費やしていた。
 したがって、原告の時間外勤務(残業)時間数を認定するに際しては、上記の点を踏まえ、〔1〕昼食休憩以外に休憩時間として二時間、〔2〕二四時以降勤務した場合には夜食休憩時間として一時間、〔3〕二七時以降勤務した場合には仮眠休憩時間として一時間をそれぞれ差し引く必要がある。また、〔4〕二九時以降は仮眠などに費やされていたから、勤務時間に算入すべきでない。なお、休日勤務については、四週四休の法定休日を取れなかった場合のみ三五パーセントの割増賃金(残業代)の支給対象とし、それ以外の休日については通常の時間外勤務(残業)として扱うべきである(具体的には、休日勤務と扱われるのは、平成一六年五月二九日及び同年九月五日の二日だけである)。
 以上のほか(2)で述べるとおり被告においては、月額の所定賃金に月四〇時間分の時間外勤務(残業)手当(残業代)及び月四〇時間分の深夜勤務手当が含まれていたから、時間外割増賃金(残業代)の支給の対象となるのは、それぞれ月四〇時間を超えた分についてのみである。
(2)原告の主張する賃金単価は争う。
 給与明細書に記載された基本給は、時間外、休日及び深夜の割増賃金(残業代)を含む所定月額賃金である。被告は、コピーやデザインの制作が、その性質上勤務時間数によってではなく、その仕事の成果によって決められるものであり、勤務時間数に基づいて賃金を決めることが実態にそぐわないため、原告を含むコピーライター、デザイナー及びアートディレクターのすべての従業員に対し、月四〇時間相当の時間外勤務(残業)手当(残業代)及び月四〇時間相当の深夜手当の割増賃金(残業代)を含めた所定の月額賃金を支給していた。この点は、代表者が原告を含むすべての従業員に対し、雇用契約締結時に説明し、口頭ではあるが全員から同意を得ていたものである。
 すなわち、給与明細書上は明記していなかったものの、平成一五年三月から同年六月までは、給与明細書上基本給として記載された三六万〇〇〇〇円を、基本給二六万八二一〇円、業務手当七万六五〇〇円、深夜手当一万五二九〇円に分けて支給していたのであるから、以上の合計である三六万〇〇〇〇円は時間外、休日及び深夜の割増賃金(残業代)を含む所定月額賃金である。また、平成一五年七月から平成一六年五月までは、給与明細書上基本給として記載された四五万〇〇〇〇円を、基本給三三万五四〇〇円、業務手当九万五五〇〇円、深夜手当一万九一〇〇円に、平成一六年六月から平成一七年二月までは、給与明細書上基本給として記載された五五万〇〇〇〇円を、基本給四一万〇〇〇〇円、調整手当二〇〇円、業務手当一一万六五〇〇円、深夜手当二万三三〇〇円に、それぞれ分けて支給していたのであるから、四五万〇〇〇〇円(平成一六年五月まで)、五五万〇〇〇〇円(平成一七年八月まで)はいずれも時間外、休日及び深夜の割増賃金(残業代)を含む所定月額賃金である。また、平成一七年二月からはその旨を給与明細書に記載して支給することとし、その点につき原告以外の従業員全員の同意を得ている。なお、原告に対しては、同月から役職手当として三万〇〇〇〇円を支払っている。
 なお、数年の経験を有する同業種のコピーライターの賃金は、時間外、休日及び深夜の割増賃金(残業代)を含めても月額約三〇万円から三五万円が世間相場であり、被告としては原告に対して相当高額な賃金を支払っていたものである。
(3)原告の主張する時間外勤務(残業)手当(残業代)の額については争う。
(4)被告は、原告に対し、平成一七年三月、管理職となることを正式に依頼し、原告もこれを了解したので、前記のとおり同年二月分からさかのぼって役職手当を支給することとした。したがって、原告は、少なくとも同月以降は、時間外、休日及び深夜の割増賃金(残業代)の支給対象とならない。

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