2009年12月26日土曜日

顧問弁護士(法律顧問)がよく問い合わせを受けるテーマ:公益通報者保護法

顧問弁護士(法律顧問)がよく問い合わせを受けるテーマをまとめます。

今日は、公益通報者保護法についてです。

近年、消費者の信頼を裏切る企業不祥事が続発し、一部の事業者は市場からの撤退を余儀なくされました。食品の偽装表示事件や自動車のリコール隠し事件に見られるように、これらの犯罪行為や法令違反行為の多くは、事業者内部の労働者等からの通報を契機として明らかにされました。そもそも犯罪行為や法令違反行為は許されるものではなく、事業者による法令遵守を確保し、国民の生命、身体、財産などへの被害を防止していく観点から、公益のために通報する行為は、正当な行為として評価されるべきと考えられ、また、通報を理由とした解雇を無効とした判例も徐々に増えてきているところです。しかし、公益のために労働者が通報を行った場合に、どのような内容の通報をどこへ行えば解雇等の不利益取扱いから保護されるのかは、これまで必ずしも明確ではありませんでした。そこで立法されたのが公益通報者保護法です。

同法の条文は以下のとおりです。

(目的)
第一条  この法律は、公益通報をしたことを理由とする公益通報者の解雇の無効等並びに公益通報に関し事業者及び行政機関がとるべき措置を定めることにより、公益通報者の保護を図るとともに、国民の生命、身体、財産その他の利益の保護にかかわる法令の規定の遵守を図り、もって国民生活の安定及び社会経済の健全な発展に資することを目的とする。

(定義)
第二条  この法律において「公益通報」とは、労働者(労働基準法 (昭和二十二年法律第四十九号)第九条 に規定する労働者をいう。以下同じ。)が、不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的でなく、その労務提供先(次のいずれかに掲げる事業者(法人その他の団体及び事業を行う個人をいう。以下同じ。)をいう。以下同じ。)又は当該労務提供先の事業に従事する場合におけるその役員、従業員、代理人その他の者について通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしている旨を、当該労務提供先若しくは当該労務提供先があらかじめ定めた者(以下「労務提供先等」という。)、当該通報対象事実について処分(命令、取消しその他公権力の行使に当たる行為をいう。以下同じ。)若しくは勧告等(勧告その他処分に当たらない行為をいう。以下同じ。)をする権限を有する行政機関又はその者に対し当該通報対象事実を通報することがその発生若しくはこれによる被害の拡大を防止するために必要であると認められる者(当該通報対象事実により被害を受け又は受けるおそれがある者を含み、当該労務提供先の競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがある者を除く。次条第三号において同じ。)に通報することをいう。
一  当該労働者を自ら使用する事業者(次号に掲げる事業者を除く。)
二  当該労働者が派遣労働者(労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律 (昭和六十年法律第八十八号。第四条において「労働者派遣法」という。)第二条第二号 に規定する派遣労働者をいう。以下同じ。)である場合において、当該派遣労働者に係る労働者派遣(同条第一号 に規定する労働者派遣をいう。第五条第二項において同じ。)の役務の提供を受ける事業者
三  前二号に掲げる事業者が他の事業者との請負契約その他の契約に基づいて事業を行う場合において、当該労働者が当該事業に従事するときにおける当該他の事業者
2  この法律において「公益通報者」とは、公益通報をした労働者をいう。
3  この法律において「通報対象事実」とは、次のいずれかの事実をいう。
一  個人の生命又は身体の保護、消費者の利益の擁護、環境の保全、公正な競争の確保その他の国民の生命、身体、財産その他の利益の保護にかかわる法律として別表に掲げるもの(これらの法律に基づく命令を含む。次号において同じ。)に規定する罪の犯罪行為の事実
二  別表に掲げる法律の規定に基づく処分に違反することが前号に掲げる事実となる場合における当該処分の理由とされている事実(当該処分の理由とされている事実が同表に掲げる法律の規定に基づく他の処分に違反し、又は勧告等に従わない事実である場合における当該他の処分又は勧告等の理由とされている事実を含む。)
4  この法律において「行政機関」とは、次に掲げる機関をいう。
一  内閣府、宮内庁、内閣府設置法 (平成十一年法律第八十九号)第四十九条第一項 若しくは第二項 に規定する機関、国家行政組織法 (昭和二十三年法律第百二十号)第三条第二項 に規定する機関、法律の規定に基づき内閣の所轄の下に置かれる機関若しくはこれらに置かれる機関又はこれらの機関の職員であって法律上独立に権限を行使することを認められた職員
二  地方公共団体の機関(議会を除く。)

(解雇の無効)
第三条  公益通報者が次の各号に掲げる場合においてそれぞれ当該各号に定める公益通報をしたことを理由として前条第一項第一号に掲げる事業者が行った解雇は、無効とする。
一  通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると思料する場合 当該労務提供先等に対する公益通報
二  通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由がある場合 当該通報対象事実について処分又は勧告等をする権限を有する行政機関に対する公益通報
三  通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由があり、かつ、次のいずれかに該当する場合 その者に対し当該通報対象事実を通報することがその発生又はこれによる被害の拡大を防止するために必要であると認められる者に対する公益通報
イ 前二号に定める公益通報をすれば解雇その他不利益な取扱いを受けると信ずるに足りる相当の理由がある場合
ロ 第一号に定める公益通報をすれば当該通報対象事実に係る証拠が隠滅され、偽造され、又は変造されるおそれがあると信ずるに足りる相当の理由がある場合
ハ 労務提供先から前二号に定める公益通報をしないことを正当な理由がなくて要求された場合
ニ 書面(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録を含む。第九条において同じ。)により第一号に定める公益通報をした日から二十日を経過しても、当該通報対象事実について、当該労務提供先等から調査を行う旨の通知がない場合又は当該労務提供先等が正当な理由がなくて調査を行わない場合
ホ 個人の生命又は身体に危害が発生し、又は発生する急迫した危険があると信ずるに足りる相当の理由がある場合

(労働者派遣契約の解除の無効)
第四条  第二条第一項第二号に掲げる事業者の指揮命令の下に労働する派遣労働者である公益通報者が前条各号に定める公益通報をしたことを理由として同項第二号に掲げる事業者が行った労働者派遣契約(労働者派遣法第二十六条第一項 に規定する労働者派遣契約をいう。)の解除は、無効とする。

(不利益取扱いの禁止)
第五条  第三条に規定するもののほか、第二条第一項第一号に掲げる事業者は、その使用し、又は使用していた公益通報者が第三条各号に定める公益通報をしたことを理由として、当該公益通報者に対して、降格、減給その他不利益な取扱いをしてはならない。
2  前条に規定するもののほか、第二条第一項第二号に掲げる事業者は、その指揮命令の下に労働する派遣労働者である公益通報者が第三条各号に定める公益通報をしたことを理由として、当該公益通報者に対して、当該公益通報者に係る労働者派遣をする事業者に派遣労働者の交代を求めることその他不利益な取扱いをしてはならない。

(解釈規定)
第六条  前三条の規定は、通報対象事実に係る通報をしたことを理由として労働者又は派遣労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをすることを禁止する他の法令(法律及び法律に基づく命令をいう。第十条第一項において同じ。)の規定の適用を妨げるものではない。
2  第三条の規定は、労働契約法 (平成十九年法律第百二十八号)第十六条 の規定の適用を妨げるものではない。
3  前条第一項の規定は、労働契約法第十四条 及び第十五条 の規定の適用を妨げるものではない。

(一般職の国家公務員等に対する取扱い)
第七条  第三条各号に定める公益通報をしたことを理由とする一般職の国家公務員、裁判所職員臨時措置法 (昭和二十六年法律第二百九十九号)の適用を受ける裁判所職員、国会職員法 (昭和二十二年法律第八十五号)の適用を受ける国会職員、自衛隊法 (昭和二十九年法律第百六十五号)第二条第五項 に規定する隊員及び一般職の地方公務員(以下この条において「一般職の国家公務員等」という。)に対する免職その他不利益な取扱いの禁止については、第三条から第五条までの規定にかかわらず、国家公務員法 (昭和二十二年法律第百二十号。裁判所職員臨時措置法 において準用する場合を含む。)、国会職員法 、自衛隊法 及び地方公務員法 (昭和二十五年法律第二百六十一号)の定めるところによる。この場合において、一般職の国家公務員等の任命権者その他の第二条第一項第一号に掲げる事業者は、第三条各号に定める公益通報をしたことを理由として一般職の国家公務員等に対して免職その他不利益な取扱いがされることのないよう、これらの法律の規定を適用しなければならない。

(他人の正当な利益等の尊重)
第八条  第三条各号に定める公益通報をする労働者は、他人の正当な利益又は公共の利益を害することのないよう努めなければならない。

(是正措置等の通知)
第九条  書面により公益通報者から第三条第一号に定める公益通報をされた事業者は、当該公益通報に係る通報対象事実の中止その他是正のために必要と認める措置をとったときはその旨を、当該公益通報に係る通報対象事実がないときはその旨を、当該公益通報者に対し、遅滞なく、通知するよう努めなければならない。

(行政機関がとるべき措置)
第十条  公益通報者から第三条第二号に定める公益通報をされた行政機関は、必要な調査を行い、当該公益通報に係る通報対象事実があると認めるときは、法令に基づく措置その他適当な措置をとらなければならない。
2  前項の公益通報が第二条第三項第一号に掲げる犯罪行為の事実を内容とする場合における当該犯罪の捜査及び公訴については、前項の規定にかかわらず、刑事訴訟法 (昭和二十三年法律第百三十一号)の定めるところによる。

(教示)
第十一条  前条第一項の公益通報が誤って当該公益通報に係る通報対象事実について処分又は勧告等をする権限を有しない行政機関に対してされたときは、当該行政機関は、当該公益通報者に対し、当該公益通報に係る通報対象事実について処分又は勧告等をする権限を有する行政機関を教示しなければならない。


会社の方で、以上の点に不明なことがあれば、顧問弁護士にご相談ください。

個人の方で、以上の点につき相談したいことがあれば、弁護士にご相談ください。

なお、法律というのは絶えず改正が繰り返され、日々新たな裁判例・先例が積み重なっていきます。法の適用・運用のトレンドもその時々によって変わることがあります。そして、事例ごとに考慮しなければならないことが異なるため、一般論だけを押さえても、最善の問題解決に結びつかないことが多々あります(特にこのブログで紹介することの多い不払いの残業代などの労務問題は、これらの傾向にあります)。そして、当ブログにおいて公開する情報は、対価を得ることなくメモ的な走り書きによりできあがっているため、(ある程度気をつけるようにしていますが)不完全な記述や誤植が含まれている可能性があり、また、書いた当時は最新の情報であっても現在では情報として古くなっている可能性もあります。実際にご自身で解決することが難しい法律問題に直面した場合には、一般的に得られる知識のみに基づいてご自身で判断してしまうのではなく、必ず法律の専門家(顧問弁護士・法律顧問など)に個別にご相談いただくことを強くお勧めします。また、最近は、企業のコンプライアンスの重要性、すなわち、法律や規則などのごく基本的なルールに従って活動を行うことの重要性が高まっています。労働者から未払いの残業代を請求されるというサービス残業の問題を始め、企業にある日突然法律トラブルが生じることがあります。日頃からコンプライアンスを徹底するためにも、顧問弁護士を検討することをお勧めします。

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2009年11月29日日曜日

第三者割当による新株予約権発行の差止め

顧問弁護士(法律顧問)が業務上扱うテーマをまとめます。

今日のテーマは、第三者割当による新株予約権発行の差止めについてです。つまり、企業支配権をめぐる争いがあった場合に、新株予約権の発行が不公正取引に該当するかという問題です。この問題については、有名なライブドア/ニッポン放送新株予約権発行差止請求事件の裁判例があるので、以下に判決文を紹介します。

会社の経営支配権に現に争いが生じている場面において、株式の敵対的買収によって経営支配権を争う特定の株主の持株比率を低下させ、現経営者又はこれを支持し事実上の影響力を及ぼしている特定の株主の経営支配権を維持・確保することを主要な目的として新株予約権の発行がされた場合には、原則として、商法280条ノ39第4項が準用する280条ノ10にいう「著シク不公正ナル方法」による新株予約権の発行に該当するものと解するのが相当である。

もっとも、経営支配権の維持・確保を主要な目的とする新株予約権発行が許されないのは、取締役は会社の所有者たる株主の信認に基礎を置くものであるから、株主全体の利益の保護という観点から新株予約権の発行を正当化する特段の事情がある場合には、例外的に、経営支配権の維持・確保を主要な目的とする発行も不公正発行に該当しないと解すべきである。

例えば、株式の敵対的買収者が、〈1〉真に会社経営に参加する意思がないにもかかわらず、ただ株価をつり上げて高値で株式を会社関係者に引き取らせる目的で株式の買収を行っている場合(いわゆるグリーンメイラーである場合)、〈2〉会社経営を一時的に支配して当該会社の事業経営上必要な知的財産権、ノウハウ、企業秘密情報、主要取引先や顧客等を当該買収者やそのグループ会社等に移譲させるなど、いわゆる焦土化経営を行う目的で株式の買収を行っている場合、〈3〉会社経営を支配した後に、当該会社の資産を当該買収者やそのグループ会社等の債務の担保や弁済原資として流用する予定で株式の買収を行っている場合、〈4〉会社経営を一時的に支配して当該会社の事業に当面関係していない不動産、有価証券など高額資産等を売却等処分させ、その処分利益をもって一時的な高配当をさせるかあるいは一時的高配当による株価の急上昇の機会を狙って株式の高価売り抜けをする目的で株式買収を行っている場合など、当該会社を食い物にしようとしている場合には、濫用目的をもって株式を取得した当該敵対的買収者は株主として保護するに値しないし、当該敵対的買収者を放置すれば他の株主の利益が損なわれることが明らかであるから、取締役会は、対抗手段として必要性や相当性が認められる限り、経営支配権の維持・確保を主要な目的とする新株予約権の発行を行うことが正当なものとして許されると解すべきである。そして、株式の買収者が敵対的存在であるという一事のみをもって、これに対抗する手段として新株予約権を発行することは、上記の必要性や相当性を充足するものと認められない。

したがって、現に経営支配権争いが生じている場面において、経営支配権の維持・確保を目的とした新株予約権の発行がされた場合には、原則として、不公正な発行として差止請求が認められるべきであるが、株主全体の利益保護の観点から当該新株予約権発行を正当化する特段の事情があること、具体的には、敵対的買収者が真摯に合理的な経営を目指すものではなく、敵対的買収者による支配権取得が会社に回復し難い損害をもたらす事情があることを会社が疎明、立証した場合には、会社の経営支配権の帰属に影響を及ぼすような新株予約権の発行を差し止めることはできない。

以上の点に不明なことがあれば、御社の顧問弁護士にご相談ください。個人の方で、以上の点につき相談したいことがあれば、弁護士にご相談ください。なお、法律というのは絶えず改正が繰り返され、日々新たな裁判例・先例が積み重なっていきます。法の適用・運用のトレンドもその時々によって変わることがあります。そして、事例ごとに考慮しなければならないことが異なるため、一般論だけを押さえても、最善の問題解決に結びつかないことが多々あります(特にこのブログで紹介することの多い労務問題(残業代の請求、サービス残業など)は、これらの傾向が顕著です)。そして、当ブログにおいて公開する情報は、対価を得ることなくメモ的な走り書きによりできあがっているため、(ある程度気をつけるようにしていますが)不完全な記述や誤植が含まれている可能性があり、また、書いた当時は最新の情報であっても現在では情報として古くなっている可能性もあります。実際にご自身で解決することが難しい法律問題に直面した場合には、一般的に得られる知識のみに基づいてご自身で判断してしまうのではなく、必ず専門家(顧問弁護士・法律顧問など)に個別にご相談いただくことを強くお勧めします。

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2009年3月14日土曜日

残業代請求

今回は、サービス残業の残業代請求に関する判例を紹介いたします(つづき)。 


(3)原告の勤務実態について
ア 証拠(略)によれば、原告の勤務実態について以下の事実が認められる。
 被告の業務は、そのほとんどが松下電器産業株式会社(以下「松下電器」という)の発注する広告制作であった。
 通常の広告制作においては、コピーやデザインの制作会社は、広告代理店と連絡を取り合い、その了解の下に作業を進めていけば足りるところ、松下電器の広告制作は、広告代理店のほか松下電器の両方と連絡を取り合い、その了解を得て作業を進めるという点で独特の進行形式をとっており、その手続のために通常よりも時間を要した。
 松下電器は、広告代理店に広告制作を依頼し、広告代理店が被告に下請けを発注する。広告代理店のコピーライターが被告のコピーライターに電話で連絡し、その日のうちに広告代理店のコピーライターが打合せのために、来社する。その時までに被告のコピーライターは、各種リサーチや資料収集を書店やインターネットで行い、広告代理店のコピーライターが来社し、説明を開始したときから、すぐにたたき台となる下案作成を開始し、それをもとにして広告代理店のコピーライターが体裁を整えて広告文を完成させる。
 他方、ビジュアルと称される絵柄は、デザイナーが作成し、これに上記広告文を貼り込んで原稿が完成する。同原稿に広告文が正しく反映されているかを被告のコピーライターが最終的にチェックする。そのほかにも、商品のスペックに関する記載や注記など正確性を要求される部分のチェックもコピーライターの仕事であった。
 以上の過程において、当初のリサーチ開始から広告文が完成するまでに数日間かかり、その広告文が貼り込まれたデザイン制作が完成するまでにも数日間かかる。その数日間の間にも、書き直し、推敲、校正の作業が毎日発生し、その間はほとんど深夜や徹夜の作業に追われる。
 被告のコピーライターは、デザイナーが作業をする大元のリサーチや資料作成及び最終的なデザイン原稿完成品のチェックまでを行うため、その間終始待機する必要があり、拘束時間は非常に長く、アートディレクターやデザイナーに比較してもその拘束時間は長かった。
 原告の在社中は、ハードディスクレコーダーがブームとなる時期であり、松下電器は、「ディーガ」と称するハードディスクレコーダーの売込みに非常に力を入れていたため、特に多忙であった。被告が受注した広告媒体は、店頭や駅に貼る大型ポスター、雑誌広告、新聞広告のほか、店頭に陳列するための棚のデザイン、商品のパッケージのデザイン等同商品の印刷物に関するありとあらゆるものに及んだ。
 当時は、デザイナーがデザイン制作の前段階の資料集めや機種の詳細な仕様などについてチェックすることができなかったため、これらはすべてコピーライターの仕事となり、原告は、例えば雑誌や他社のカタログを収集して性能の比較や、実際に家電量販店に赴いて販売担当者の意見を聴いたりして徹底的に調査する必要があった。これは、原告が独自に必要と判断したものもあったが、松下電器の担当者から求められてのものもあった。
 デザイナーとコピーライターは、このように絵柄を作りながら原稿のチェックをするという仕事の仕方をしていたため、いずれかの仕事が先に終わるということは基本的にはなかった。
 上記のように深夜や徹夜での作業が多いため、その翌日の出社は、本来の勤務時間にかかわりなく、同日の打合せ等に支障がない限り一〇時を過ぎて出社することが認められていたが、あるとき、被告代表者のみが出社していた時間帯に依頼者からの問い合わせがあり、被告代表者がこれに対応できなかったことから、遅くとも一〇時までに出社することとされた。
 以上のとおり認められる。
イ 以上を総合すると、作業の合間に生ずる空き時間は、広告代理店の指示があれば直ちに作業に従事しなければならない時間であると認められ、広告代理店の指示に従うことは被告の業務命令でもあると解されるから、その間は被告の指揮監督下にあると認めるのが相当であり、労働時間に含まれると認められる。
ウ これに対し、被告は、原告には、コピーライターとしての仕事の内容から、コピーの制作が期限までに完成すれば原告の裁量により自由に勤務してよいこと、余裕があるときは一八時半ころに帰ってもよいし、担当するコピー制作の仕事が終われば自由に休憩したり、事務所にいなくてもよいし、自主的な勉強や私的なことに時間を使ってもよいこと等を説明し、実際にも原告は、勤務時間中ずっと仕事をするという状況にはなく、食事休憩の一時間以外にも一日少なくとも二、三時間は自由に休憩したり、パソコンやインターネットで遊んだり、ネットオークションを検索したり、または社外に出て本屋に行ったり散策するなど私的なことに時間を費やしていたと主張し、被告代表者はこれに沿う供述をする。
 しかし、そのような説明をしたことを裏付けるに足りる証拠はなく、被告代表者の供述のみでは同事実は認めるには足りない。また、その点はおくとしても、前記認定事実によれば、作業と作業の合間に一見すると空き時間のようなものがあるとしても、その間に次の作業に備えて調査をしたり、次の作業に備えて待機していたことが認められるのであり、なお、被告の指揮監督の下にあるといえるから、そのような空き時間も労働時間と認めるべきである。したがって、そのような時間を利用して原告がパソコンで遊んだりしていたとしても、これを休憩と認めるのは相当ではない。
 次に、被告代表者は、被告が原告の勤務時間について具体的な指示をすることはなく、原告は自己の裁量により勤務時間を管理することができ、原告が制作の作業に最後まで付き合う必要はなかったと供述する。確かに、被告が原告の勤務時間について具体的な指示をすることはなかったことはそのとおりであろう。しかし、依頼者である広告代理店の指示に従うことが被告の業務命令の内容であると解されるから、広告代理店の指示が上記のような業務を求めるのであれば、それに従うことが被告の業務命令でもあるのであって、そのような実態がありながら、自己の裁量によって管理することができたなどというのは言い訳にすぎない。
 また、被告代表者は、アートディレクターやデザイナーに比してコピーライターは、最後まで付き合う必要はなかったと供述するが、この点に関する原告本人の供述には説得力があるのに対し、被告代表者は二〇時ころには帰っていたというのであり(被告代表者の尋問調書二六頁)、業務の実態について正確な認識を持っていたのか疑わしいことにも照らすと,被告代表者の供述は採用することができない。
(4)原告の時間外勤務(残業)時間について
 以上の認定を前提にすれば、原告の時間外勤務(残業)時間については、タイムカードの記載のとおりであり、別紙四の一ないし二一(略)のとおりと認めるのが相当である(別紙四の一ないし二一(略)は基本的には別紙二の一ないし二一(略)と同一であるが、別紙二(略)と書証との間に齟齬がある箇所が若干あり、このうち、書証によれば労働時間が短くなる部分については書証記載の時刻を記載し(別紙四(略)に(赤色)で示した部分)、書証によれば労働時間が長くなる部分については別紙二(略)の時刻の範囲で請求しているものとして、別紙二(略)の時刻を記載した(別紙四(略)に(黄色)で示した部分))
。なお、同別紙(略)の「退勤」欄に「三四:〇〇」とあるのは、対応するタイムカードに「居続け」(平成一六年二月二七日(書証略))、「泊」「通し」(平成一六年四月五日(書証略))などの記載があることから、社内にとどまって仕事をしたものと認めた。また、土曜日曜以外の祝日については、法定休日ではなく、かつ週四〇時間の範囲内であるから、平日と同様、出勤時刻の八時間三〇分後を所定労働時間終了時刻として、時間外勤務(残業)時間を計算した(これによる別紙二(略)との差異についても別紙四(略)に(赤色)で示した)。 
 被告は、〔1〕昼食休憩以外に休憩時間として二時間、〔2〕二四時以降勤務した場合には夜食休憩時間として一時間、〔3〕二七時以降勤務した場合には仮眠休憩時間として一時間をそれぞれ差し引く必要があり、〔4〕二九時以降は仮眠などに費やされていたから、勤務時間に算入すべきでないと主張するが、原告の勤務実態が上記認定のとおりであり、被告の主張するような休憩をとっていたような実態にはなかった以上、上記主張は採用することができない。
3 時間単価について
 上記の判断を前提にすると、時間単価については、以下の算式のとおり、平成一五年七月から平成一六年五月までは二八一二円、平成一六年六月から平成一七年八月までは三四三七円とするのが相当である(一円未満切捨て。なお、時間単価を算定する際の所定労働時間数は、月によって所定労働時間数が異なる場合には、一年間における一月平均所定労働時間数を用いるべきところ(労基法施行規則一九条一項四号)、その一年間とは当該月の属する年の一月から一二月までと解するのが相当であり、それを前提に計算すると、別紙五(略)記載のとおり平成一五年、平成一六年及び平成一七年のいずれも二〇日となる(小数点以下切り捨て))。
四五〇、〇〇〇円÷(二〇日×八時間)=二八一二円
五五〇、〇〇〇円÷(二〇日×八時間)=三四三七円
4 時間外、休日及び深夜の割増賃金(残業代)の額について
 以上を前提に、原告の時間外、休日及び深夜の割増賃金(残業代)の額を算定すると、別紙六(略)「残業賃金合計額」欄記載のとおり九九〇万五六九七円となり、既払い金八二万二九九八円を控除すると、同別紙(略)「未払金額」欄記載のとおり九〇八万二六九九円となる。

 なお、書証(略)によれば、平成一七年二月一〇日、被告は、従業員の過半数を代表する者との間で、時間外労働(残業)及び休日労働に関する協定を締結(労基署への届出は同年三月九日)したことが認められるが、同協定自体は時間外及び休日の割増賃金(残業代)の支払義務を免除するものではなく、他方、被告が給与明細書に記載した業務手当、深夜手当をもって時間外及び深夜の割増賃金(残業代)と認めることはできないことは前記1(2)に説示したとおりであるから、同協定の存在は原告の時間外割増賃金(残業代)の額を左右しない。
 また、被告は、休日の割増賃金(残業代)について、四週四休の法定休日を取れなかった場合のみ三五パーセントの割増賃金(残業代)の支給対象とし、それ以外の休日については通常の時間外勤務(残業)として扱うべきであると主張する。同主張は、労基法三五条二項の適用を求めるものと解されるが、同項の制度を採用する際には、同法施行規則一二条の二第二項に基づき就業規則その他これに準ずるものにおいて、四日以上の休日を与えることとする四週間の起算日を明らかにする必要があるところ、この点については何らの主張も立証もないから、上記主張は採用することができない。
5 管理監督者性の有無について
 なお、被告は、平成一七年二月以降は原告を管理職として登用し、以後時間外勤務(残業)手当(残業代)の支給対象ではなくなったとの主張をするので検討するに、上記認定事実に照らしても、原告の勤務実態が同時期の前後を通じて変化した形跡はうかがわれず、原告が労基法上の管理監督者(四一条三号)に当たると認めることはできない。ただし、同月以降支給されている役職手当(毎月三万円)については、時間外勤務(残業)手当(残業代)の一部として未払分から控除するのが相当である(上記4では既に控除して計算してある)。
6 付加金について
 上記認定にかかる原告の時間外勤務(残業)の実態に加え、証拠により認められる、同実態について原告をはじめとする従業員から被告に対して時間外勤務(残業)手当(残業代)の支給及び人員不足の改善についての申入れがされていたにもかかわらず、ごく少額の休日手当等を支払ったことがあるだけで、被告がそのいずれにも応じてこなかったこと(証拠略)、他方、労働基準監督署の是正勧告を受けた後は時間外勤務(残業)についての届出をするとともに(上記4)、時間外勤務(残業)手当(残業代)の支給についての是正が図られるに至ったこと(上記1(2))等の事情に照らすと、労基法一一四条に基づく付加金として、五〇〇万円の支払を命ずるのが相当である。

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2009年2月24日火曜日

残業代請求(サービス残業)

今回は、サービス残業の残業代請求に係る裁判例を紹介しています(つづき)。


第三 当裁判所の判断
1 月額の所定賃金に時間外、休日及び深夜の割増賃金(残業代)が含まれていたか否か
 被告は、月額の所定賃金に時間外、休日及び深夜の割増賃金(残業代)が含まれていたと主張する。この点は、割増賃金(残業代)の支給の対象となる時間外勤務(残業)時間がどれだけかという問題と時間外勤務(残業)手当(残業代)の算定における時間単価をどれだけにするかという問題とに関係してくるので、一括してここで判断する。そして、この旨が給与明細書上明らかにされていなかった平成一七年一月までとこれが明らかにされるようになった平成一七年二月以降とに分けて検討する。
(1)平成一七年一月まで
 平成一七年一月までは給与明細書上は基本給とされているだけで、月額の所定賃金のほかに時間外、休日及び深夜の割増賃金(残業代)が支給されている旨の記載がないことについては争いがないところ、毎月一定時間分の時間外勤務(残業)手当(残業代)を定額で支給する場合には、割増率が所定のものであるか否かを判断し得ることが必要であり、そのためには通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外、休日及び深夜の割増賃金(残業代)に当たる部分とが判別し得ることが必要であると解されるから(最高裁平成六年六月一三日判決(判例時報一五〇二号一四九頁)、同昭和六三年七月一四日判決(労働判例五二三号六頁)参照)、被告のような支給の仕方では不十分であり、上記基本給の中にこれら割増賃金(残業代)が含まれていたと認めることはできない。
 被告代表者は、基本給の中に割増賃金(残業代)を含めて支給することについて原告を含むすべての従業員の同意を得たと供述するが(同人の尋問調書五頁)、同供述は、客観的な裏付けが全くないばかりでなく、基本給の中に月四〇時間分の時間外勤務(残業)手当(残業代)及び四〇時間分の深夜勤務手当が含まれていたとする被告の主張とも必ずしも一致しないのであって(代表者の上記供述は、基本給の中に一切の時間外勤務(残業)手当(残業代)及び深夜勤務手当が含まれていたとするものとしか解されない)、信憑性を認めることはできず、採用することができない。

 また、被告は、広告代理店のコピーライターなどについては、時間外勤務(残業)手当(残業代)は基本給に含まれているというのが業界の一般的な扱いであるとの主張もするが、このような扱いが労基法上許されないものであることは上記説示に照らして明らかであり、被告における扱いがこのような一般的な扱いにならったものであるとしても、これを正当化することはできない。
(2)平成一七年二月以降について
 上記(1)の判断を前提とすると、四一万〇〇〇〇円の基本給を基準として、月四〇時間分の時間外割増賃金(残業代)として業務手当一一万六五〇〇円、月四〇時間分の深夜割増賃金(残業代)として深夜手当二万三三〇〇円を支給するという方法は、通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外及び深夜の割増賃金(残業代)に当たる部分とを判別し得るから、時間外及び深夜の割増賃金(残業代)の支給の一方法として許される。ただ、本件においては、平成一七年一月時点での原告の基本給は五五万〇〇〇〇円であったから、これを基本給四一万〇〇〇〇円、調整手当二〇〇円、業務手当一一万六五〇〇円、深夜手当二万三三〇〇円に、それぞれ分けて支給することとすることは、基本給を減額することを意味し、原告にとっては不利益処分となるから、このことについて原告の同意が必要とされるところ、原告の同意を得ていないことは被告の自認するところであり、証拠によっても原告が同意した事実を認めることはできない。
 したがって、原告に対する関係では、平成一七年二月以降についても上記の月額五五万〇〇〇〇円に時間外、休日及び深夜の割増賃金(残業代)が含まれていたと認めることはできない。

2 原告の勤務時間について
(1)タイムカードの記載の正確性について
 被告は、タイムカードの記載の手書き部分は退勤時刻が実際の時刻よりも遅い時刻が記載されている可能性が高いと主張する。この点に関し、原告は、本人尋問において、手書きの記載をした理由として、例えば社外の打合せ場所から直接帰宅した場合、退社時刻が一定時刻を過ぎた場合、翌日の出勤欄に打刻されてしまう等設定が狂っていた場合、打刻を忘れた場合等があり、記載に際しては基本的には勤務状況を正確に反映する記載をし、端数が生じた際や記憶が曖昧になった場合には労働時間を短めにする方向で調節した旨を供述する(原告の本人尋問調書三ないし四、二二ないし二三頁)。同供述には格別不自然な点も見られず、タイムカード自体に「直行」(平成一五年一〇月一六日(書証略))、「直帰」(平成一七年三月二日(書証略))、「打刻故障(報告済み)」(平成一七年五月二三日(書証略))などの記載のほか、出勤時刻の打刻欄に「二:二〇」と退勤時刻と思われる時刻が打刻されている(平成一六年一〇月二九日(書証略))など、原告の供述に沿う記載がみられることに照らすと、信用に値すると思われるのに対し、被告は何ら具体的な反証をしない。そもそも、使用者には労働者の勤務時間を把握する義務があり、タイムカードに手書きの記載があるのに何ら是正を求めることなく放置してきたことに照らすと、被告は同記載を事実として受入れてきたと推認されるのであって、このことと前記原告本人尋問の結果とを併せて考えると、原告の供述どおりタイムカードの記載は原告の出退勤の実態をほぼ正確に反映したものと認めるのが相当である。
(2)原告の勤務時間について
 被告における原告の勤務時間について、原告は一八時三〇分までと主張し、被告は一九時までと主張するところ、被告代表者は、被告の主張に沿う供述をする。しかし、求人雑誌に掲載された被告作成の求人広告(書証略)及びインターネット上の求人広告(書証略)にはいずれも終業時刻一八時三〇分と記載されているのであり、原告との労働契約締結に際しても、一八時三〇分として合意が成立したものと認めるのが相当である。上記各記載について、被告代表者は、担当者が勘違いしたのだろうと供述するが、同供述は採用することができない。
 以上によれば、原告の勤務時間は、一八時三〇分までと認められる(そうすると、労働時間は一日八時間三〇分となり、使用者は六〇分の休憩を与えなければならず(労基法三四条)、時間外割増賃金(残業代)の支給対象となるのは一九時以降となる(法定の一時間の休憩が確保されている限り、一八時三〇分から一九時まではいわゆる法内超勤となる)はずだが、原告自らが、休憩を除いた実働は八時間、すなわち休憩時間は三〇分であったと主張しているから、一八時三〇分以降は時間外割増賃金(残業代)の支給対象となる労働時間であるとすることに妨げはない。なお、被告の主張によれば、本来は一九時以降が時間外割増賃金(残業代)の支給対象となるべきところ、(3)で述べるとおり一時間の休憩が確保されず、休憩時間は三〇分を確保するのがせいぜいであったという実態を前提とする限り、三〇分の不休憩の埋め合わせとして時間外割増賃金(残業代)の支給対象となる勤務時間を三〇分早める必要が生ずるから、結局のところ原被告いずれの主張によっても結論に差異はないこととなる)。
なお、企業の担当者で、残業代請求についてご相談があれば、顧問弁護士にご確認ください。顧問弁護士を検討中の企業の方は、弁護士によって顧問弁護士料やサービス内容が異なりますので、よく比較することをお勧めします。そのほか、個人の方で、不当解雇保険会社との交通事故の示談・慰謝料の交渉オフィスや店舗の敷金返還請求(原状回復義務)多重債務(借金)の返済遺言・相続の問題刑事事件などでお困りの方は、弁護士にご相談ください。

2009年1月24日土曜日

残業代請求

今回は、サービス残業の残業代請求に関する判例を紹介いたします。 

第二 事案の概要
1 争いのない事実
(1)被告は、広告・印刷物に関する企画・制作、グラフィックデザインの制作及び販売等を業とする有限会社であり、原告は、平成一五年三月に被告に入社し、コピーライターとして勤務し、平成一七年八月二〇日に解雇された。
(2)原告と被告との間の労働契約の条件は以下のとおりであった。
ア 勤務時間 一〇時から少なくとも一八時三〇分まで(うち八時間)
イ 休日・休暇 完全週休二日制(土日)及び祝日休、夏季、年末年始、有給休暇、慶弔休暇あり
ウ 給与支払日 毎月二〇日締め当月末日払
エ 原告の賃金額
 入社以後解雇されるまでの原告の賃金額のうち毎月定額で支給されるものは以下のとおりであった。なお、区分の名称は給与明細書の記載による。
平成一五年三月から同年六月まで
基本給 三六万〇〇〇〇円
平成一五年七月から平成一六年五月まで
基本給 四五万〇〇〇〇円
平成一六年六月から平成一七年一月まで
基本給 五五万〇〇〇〇円
平成一七年二月から同年八月まで
基本給 四一万〇〇〇〇円
業務手当 一一万六五〇〇円
深夜手当 二万三三〇〇円
調整手当 二〇〇円
役職手当 三万〇〇〇〇円
(合計 五八万〇〇〇〇円)
2 原告の主張
(1)原告が被告に勤務していた間のうち平成一五年一〇月から平成一七年八月までの、出勤時刻及び退勤時刻についてのタイムカードの記載は別紙二(略)の「出勤」欄及び「退勤」欄記載のとおりである。原告は、上記タイムカード記載の退勤時刻をもとに時間外、休日及び深夜の割増賃金(残業代)の支払を求める。
 被告における始業時刻は一〇時、終業時刻を一八時三〇分とし、原告の出勤時刻が始業時刻よりも遅かった場合には所定労働時間終了時刻を出勤時刻の八時間三〇分後とし、時間外勤務(残業)時間はその時刻を起点として計算した。また、原告の出勤時刻が始業時刻よりも早かった場合にも、始業時刻に出勤したものとして計算した。その結果は、別紙二の一から二一(略)の「残業時間(午後一〇時まで)」、「深夜残業時間」、「休日労働時間」及び「休日深夜労働時間」欄記載のとおりである。
(2)賃金単価は、別紙一(略)の「賃金単価」欄記載の算式のとおり、平成一五年七月から平成一六年五月までは二八七七円、平成一六年六月から平成一七年八月までは三五一九円である。これらは、いずれも基礎となる賃金を、平成一五年七月から平成一六年五月までは給与明細書記載のとおり四五万〇〇〇〇円(上記1(2))、平成一六年六月から平成一七年八月までは五五万〇〇〇〇円として計算したものである。なお、平成一六年六月から平成一七年一月までは上記給与明細書記載のとおりであるが、同年二月以降も従前の基本給を基本給、業務手当、深夜手当、調整手当に分解し、これを給与明細書上そのように記載しただけであるから、基礎となる賃金の額には変動がないというべきである。なお、同年二月以降役職手当の名目で支給されている三万〇〇〇〇円については、その実質は時間外勤務(残業)手当(残業代)の一部としての性質を有するから、基礎となる賃金には含めておらず、既払い金の一部としている。
(3)以上をもとに平成一五年一〇月から平成一七年八月までの原告の時間外,休日及び深夜の割増賃金(残業代)を計算すると、別紙三(略)記載のとおり一〇四〇万八四三九円となる。原告は、本件において同金員から既払い金八二万二九九八円を控除した残額である九五八万五四四一円の支払を求める。既払い金八二万二九九八円の内訳は、上記役職手当の名目で支給されていた金員のほか、平成一六年一一月までに休日手当として支給された金員に平成一七年二月に支払われた三七万五六四八円を合計したものである。
(4)被告は、平成一七年二月以降原告に管理職となることを正式に依頼し、原告もこれを了解したので、役職手当を支給することとしたから、少なくとも同月以降は、時間外、休日及び深夜の割増賃金(残業代)の支給対象とならないと主張するが、被告からそのような依頼をされたこともなければ原告が了解した事実もない。 
 また、原告の行っていた職務は、管理監督者(労基法四一条三号)としての実質を備えたものではなかった。
(5)よって、原告は、被告に対し、平成一五年一〇月から平成一七年八月までの時間外、休日及び深夜の割増賃金(残業代)の合計一〇四〇万八四三九円から既払い金八二万二九九八円を控除した残額である九五八万五四四一円及びこれに対する支払期の後である平成一七年九月一日から支払済みまで商事法定利率の年六分の割合による遅延損害金並びに労基法一一四条に基づく同一額の付加金九五八万五四四一円及びこれに対する判決確定の日の翌日から民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
3 被告の主張
(1)タイムカードの記載がおおむね別紙二(略)記載のとおりであることは認めるが、原告の主張する時間外勤務(残業)時間は争う。
 まず、被告における終業時刻は原告の主張する一八時三〇分ではなく、一九時であり、一〇時から一九時までで、昼食休憩の一時間を除いた八時間が所定労働時間である。
 次に、タイムカードの記載のうち、タイムレコーダーの印字がされている部分は正しいが、手書き部分は退勤時刻が実際の時刻よりも遅い時刻が記載されている可能性が高いといわざるを得ない。
 さらに、被告においては、原告の勤務時間をほとんど管理せず、原告の判断に委ねていた。被告は、原告をコピーライターとして採用したことから、入社時に、勤務時間は上記のとおりであるが、コピーライターとしての仕事の内容から、コピーの制作が期限までに完成すれば原告の裁量により自由に勤務してよいこと、余裕があるときは一八時半ころに帰ってもよいし、担当するコピー制作の仕事が終われば自由に休憩したり、事務所にいなくてもよいし、自主的な勉強や私的なことに時間を使ってもよいこと等を説明するとともに、下記(2)で述べる月額の所定賃金に基本給のほか残業手当等の諸手当が含まれていることも説明し、他の従業員も同様に勤務時間の管理は各自の裁量に委ねられている旨を説明した。そのため、原告は、勤務時間中のほとんどにおいて被告の指揮監督下におかれていなかった。実際、原告は、定時の出勤時刻に出勤することはほとんどなく、勤務期間全体の遅刻率は実に八七パーセントに上り、遅刻率が一〇〇パーセントの月が五か月、九〇パーセント以上の月が八か月もあるという通常では考えられないほどの遅刻状況にもかかわらず、被告は一切の賃金控除をしていない。また、原告は、勤務時間中ずっと仕事をするという状況にはなく、食事休憩の一時間以外にも一日少なくとも二、三時間は自由に休憩したり、パソコンやインターネットで遊んだり、ネットオークションを検索したり、または社外に出て本屋に行ったり散策するなど私的なことに時間を費やしていた。
 したがって、原告の時間外勤務(残業)時間数を認定するに際しては、上記の点を踏まえ、〔1〕昼食休憩以外に休憩時間として二時間、〔2〕二四時以降勤務した場合には夜食休憩時間として一時間、〔3〕二七時以降勤務した場合には仮眠休憩時間として一時間をそれぞれ差し引く必要がある。また、〔4〕二九時以降は仮眠などに費やされていたから、勤務時間に算入すべきでない。なお、休日勤務については、四週四休の法定休日を取れなかった場合のみ三五パーセントの割増賃金(残業代)の支給対象とし、それ以外の休日については通常の時間外勤務(残業)として扱うべきである(具体的には、休日勤務と扱われるのは、平成一六年五月二九日及び同年九月五日の二日だけである)。
 以上のほか(2)で述べるとおり被告においては、月額の所定賃金に月四〇時間分の時間外勤務(残業)手当(残業代)及び月四〇時間分の深夜勤務手当が含まれていたから、時間外割増賃金(残業代)の支給の対象となるのは、それぞれ月四〇時間を超えた分についてのみである。
(2)原告の主張する賃金単価は争う。
 給与明細書に記載された基本給は、時間外、休日及び深夜の割増賃金(残業代)を含む所定月額賃金である。被告は、コピーやデザインの制作が、その性質上勤務時間数によってではなく、その仕事の成果によって決められるものであり、勤務時間数に基づいて賃金を決めることが実態にそぐわないため、原告を含むコピーライター、デザイナー及びアートディレクターのすべての従業員に対し、月四〇時間相当の時間外勤務(残業)手当(残業代)及び月四〇時間相当の深夜手当の割増賃金(残業代)を含めた所定の月額賃金を支給していた。この点は、代表者が原告を含むすべての従業員に対し、雇用契約締結時に説明し、口頭ではあるが全員から同意を得ていたものである。
 すなわち、給与明細書上は明記していなかったものの、平成一五年三月から同年六月までは、給与明細書上基本給として記載された三六万〇〇〇〇円を、基本給二六万八二一〇円、業務手当七万六五〇〇円、深夜手当一万五二九〇円に分けて支給していたのであるから、以上の合計である三六万〇〇〇〇円は時間外、休日及び深夜の割増賃金(残業代)を含む所定月額賃金である。また、平成一五年七月から平成一六年五月までは、給与明細書上基本給として記載された四五万〇〇〇〇円を、基本給三三万五四〇〇円、業務手当九万五五〇〇円、深夜手当一万九一〇〇円に、平成一六年六月から平成一七年二月までは、給与明細書上基本給として記載された五五万〇〇〇〇円を、基本給四一万〇〇〇〇円、調整手当二〇〇円、業務手当一一万六五〇〇円、深夜手当二万三三〇〇円に、それぞれ分けて支給していたのであるから、四五万〇〇〇〇円(平成一六年五月まで)、五五万〇〇〇〇円(平成一七年八月まで)はいずれも時間外、休日及び深夜の割増賃金(残業代)を含む所定月額賃金である。また、平成一七年二月からはその旨を給与明細書に記載して支給することとし、その点につき原告以外の従業員全員の同意を得ている。なお、原告に対しては、同月から役職手当として三万〇〇〇〇円を支払っている。
 なお、数年の経験を有する同業種のコピーライターの賃金は、時間外、休日及び深夜の割増賃金(残業代)を含めても月額約三〇万円から三五万円が世間相場であり、被告としては原告に対して相当高額な賃金を支払っていたものである。
(3)原告の主張する時間外勤務(残業)手当(残業代)の額については争う。
(4)被告は、原告に対し、平成一七年三月、管理職となることを正式に依頼し、原告もこれを了解したので、前記のとおり同年二月分からさかのぼって役職手当を支給することとした。したがって、原告は、少なくとも同月以降は、時間外、休日及び深夜の割増賃金(残業代)の支給対象とならない。

企業の方で、残業代請求などについてご不明な点があれば、顧問弁護士にご相談ください。顧問弁護士を検討中の企業の方は、弁護士によって顧問弁護士の費用やサービス内容が異なりますので、よく比較することをお勧めします。その他にも、個人の方で、交通事故の示談交渉解雇刑事事件借金の返済敷金返還や原状回復(事務所、オフィス、店舗)遺言や相続などでお困りの方は、弁護士にご相談ください。